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宇都宮地方裁判所 昭和42年(ワ)45号 判決 1971年12月24日

原告

小林晴雄

被告

栃木県明石酪農業協同組合

ほか二名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金三九万九、八一〇円および内金三五万九、八一〇円に対する昭和四〇年一一月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金一二〇万円およびこれに対する昭和四〇年一一月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の原因

1  本件事故の発生

被告磯は昭和四〇年一一月二五日午前七時五〇分頃、普通貨物自動車(栃四な四四六〇、以下被告車という)を運転し、栃木県下都賀郡石橋町大字下古山二、四九一番地先付近国道四号線を東京方面に向け南下していた際、右国道を横断せんとしていた原告に衝突し、そのため原告は受傷した。

2  被告らの責任原因

(1)  被告組合は被告岩井に、その業務たる牛乳集荷の一部を専属的に下請させており、被告岩井はその所有する被告車を被告磯に運転させて右業務を遂行していたから運行供用者責任を、仮にそうでないとしても、被告組合と被告磯との間には使用関係が存在し、業務執行中であるから、民法七一五条により使用者責任がある。仮にそうでないとしても、請負関係の注文者として、過失あるものであるから、民法七一六条但書により賠償の責を負うべきものである。

(2)  被告岩井は被告車を所有し、被告磯を使用してこれに運転させて自己のため牛乳集荷の業務を遂行していた際の事故であるから、自賠法三条の運行供用者である。

(3)  本件事故は被告磯が被告車を運転中前方約三三メートルに原告が横断しているのを認めたにも拘らず直ちに何時でも停車でき、また衝突を回避しうる態勢をとりつつ進行すべきであるのにこれを怠り漫然時速四五キロのまま進行した過失に基づくものであるから、被告磯は民法七〇九条の不法行為責任がある。

3  原告の損害

<1>  治療費 一八万二、三四〇円

石橋病院、下都賀病院、岡本台病院の治療費、看護費用、腰椎用コルセツト代。

<2>  給料喪失分 六二万四、〇〇〇円

原告が事故当時の給料月額二万六、〇〇〇円を事故時より昭和四二年一一月までの二四か月間受けることのできなかつた分。

<3>  労働能力喪失分 五八万六、七四七円

原告は本件事故によりしばしば激しい頭痛がしたり、また労働するとすぐ疲れやすくなつて従前の精神的肉体的労働力は少なくとも収入の一割を減ずる程度に喪失した。

原告は昭和四二年一二月現在年令三〇年四月であつたところ、三一才の就労可能年数は三二年であり、その年五分のホフマン系数は一八・八〇六である。よつて次の式の計算による金額は次のとおりである。

二六〇〇〇×〇・一×一二×一八・八〇六=五八六七四七・二

<4>  慰藉料 七〇万円

原告は入院四月、通院一〇月を要する傷害による精神的苦悩を金銭に見積もつたものである。

<5>  請求費用 四万二、〇〇〇円

以上合計二一一万五、〇八七円である。

4  損害の填補

原告は本件事故につき自賠責保険金八三万円を受領したので、これを右損害額から差し引くと、残額は金一二八万五、〇八七円となる。

5  結論

よつて被告らに対し各自右内金一二〇万円とこれに対する本件事故発生の日である昭和四〇年一一月二五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

四  請求原因に対する答弁

被告組合、被告磯の答弁

1  第1項は不知。

2  第2項中被告組合が被告岩井に牛乳の集荷を請負わせたことを認め、その余は否認する。

3  第3項は不知。

4  第4項は認める。

5  第5項は争う。

被告岩井の答弁

1  第1項は認める。

2  第2項中、被告岩井が被告組合より同組合の業務たる牛乳集荷の一部をいわゆる下請けしていたこと、被告車が被告岩井の所有であること、被告磯は被告岩井の被用者であることは認めるがその余は否認する。

3  第3項は不知。

4  第4項は認める。

5  第5項は争う。

三  抗弁

1  被告岩井の過失相殺の主張

<1>  本件事故現場

本件現場は幅員約一〇ないし一一メートル歩車道の区別のない日光街道と幅員約七メートルの道路とが十字路交差をする右交差点内である。

しかして右交差点には信号機の設置はなく、日光街道にはセンターラインにより、上り、下りの各線が区分されている。

<2>  本件事故発生状況

被告磯は被告車を運転して時速約四五キロで日光街道を宇都宮方面より東京方面に向い右街道左側部分を走行した。

しかるところ原告は降雨中であつたため傘をさして、被告車にとつて右から左へ右日光街道を横断しようとし、センターライン付近まできたが、同人の左方約三三メートルの地点には既に被告車が走行していたにもかかわらず同方向の車両の有無を確認せず、そのまま横断したため本件事故が発生したものである。

<3>  原告の過失

歩行者といえども道路を横断するにあたつては左右の車両の有無を確認すべき義務があるというべきところ、原告は被告車が左方約三三メートルの地点に迫つているにもかかわらず何らの合図もせず、傘をさしたまま、左方の車両の有無を確認せず、そのまま横断しようとしたものである。よつて原告の右過失は重大な過失というべく本件損害額の確定につき相殺されるべきである。

2  損害の填補

原告は次のとおり本件事故による損害の填補を受けた。

<1>  自賠責保険より昭和四〇年一〇月三一日に金五三万円

<2>  自賠責保険より昭和四一年五月一七日に金二一万一、七一六円

<3>  被告組合は治療費として昭和四一年四月一三日に石橋病院に対し金五万一、六〇〇円

<4>  被告組合は右病院の付添看護費用として昭和四〇年一二月一七日に金一万二、二四〇円

<5>  その他岡本台病院の治療費および福島義肢製作所に対する義肢代金として金二万四、四四四円以上合計金八三万円である。

六  抗弁に対する答弁

1  過失相殺の主張は争う。

2  損害の填補は認める。

七  証拠 〔略〕

理由

一  本件事故の発生

被告磯が昭和四〇年一一月二五日午前七時五〇分頃、被告車を運転して栃木県下都賀郡石橋町大字下古山二、四九一番地先付近国道四号線を東京方面に向け南進中、右国道を横断しようとしていた原告に被告車を衝突させ、そのため原告が受傷したことは被告岩井の認めるところであり、被告組合と被告磯との関係では、〔証拠略〕によりこれが認められる。

二  被告らの責任原因

1  被告組合の責任

被告組合が被告岩井に牛乳の集荷を請負わせたことは、被告組合の認めるところである。

〔証拠略〕に右当事者間に争いのない事実と綜合すれば、次のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

被告組合は昭和三六年六月に農業協同組合法により設立が認可され、組合員に対する技術指導等をするほか、組合員が生産した牛乳の集荷、出荷、雪印乳業栃木工場への納入等を事業とするいわゆる専門農協であること、職員が六名で総務会計などの事務を担当しているが、集乳のための専従職員はおらず、また組合名義の車はなく、設立当時から牛乳の集荷、出荷は下請業者に請負わせていたこと、被告岩井は本件事故当時まで約一年半の間これを専属的に請負い、最初は自分一人でやつていたが次第に仕事がふえ忙しくなつたので昭和四〇年七月ごろ被告磯を雇つて二人でやるようになり、被告磯を雇うときは被告組合に対してはこれから被告磯を使う旨了解を求めてたこと、また運賃は被告組合から月毎にまとめて約二〇万円被告岩井に支払われていたこと、被告岩井は当時二トン積車二台を所有し、これで集乳出荷に当つていたこと、被告岩井はこの仕事以外は別に仕事をもつていなかつたこと、被告車は被告岩井の所有のもので、被告組合の集乳出荷の請負いのために使用していたこと、被告車の自賠責保険の名義は被告組合名議になつていたこと、被告磯は被告岩井から給料として一万五、〇〇〇円の支払いを受けていたこと、被告組合は被告磯に直接給料や運賃を支払つたことはないこと、被告磯は同じ組合員であること、被告組合の職員や地区の人は被告磯、被告岩井とは顔なじみになつていたこと、被告組合は組合名義で本件事故について強制保険金の加害者請求のための関係書類(丙第二ないし第五号証)を保険会社に提出したこと、被告組合は原告の見舞いをしたり、治療費を支払つたり、原告との示談交渉に当つたことがある。以上の事実が認められる。

右事実によれば、被告組合は被告岩井に組合の牛乳の集荷、出荷の仕事を専属的に請負わせていたものであり、被告磯は被告岩井の被用者として被告岩井所有の被告車で牛乳集荷の途中本件事故を起したものであつて、被告組合は事業の性質上専属的下請を必要として、外観上これを事業の一部に包含してこれを利用支配して牛乳集荷出荷をしているものであるから、右仕事の範囲内では、被告岩井の被用者被告磯に対しても、直接間接に指揮監督権をもつとともに、被告岩井所有の被告車についてもこれを使用する権限があつたと認められるから、本件事故当時の被告磯による運行も被告岩井のためであると同時に被告組合のためであると解される。被告組合は被告岩井とともに共同運行供用者であり、自賠法三条の運行供用者責任を免れることはできない。被告磯が被告組合の職員ではなく同組合から直接給料を受けていなかつたことの故をもつて右責任を免れることはできない。

2  被告岩井の責任

被告岩井が被告車を所有し、被告組合から集乳出荷の業務を請負つていたこと、被告磯は被告岩井の被用者であることは被告岩井の認めるところ、〔証拠略〕によれば、被告磯は被告車を運転して被告組合の牛乳集荷の途中本件事故を起したことが認められるので被告岩井は自賠法三条の運行供用者責任を免れない。

3  被告磯の責任

〔証拠略〕によれば、次の各事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(1)  本件現場は南北に走る幅員九・四メートルの国道四号線と東西に走る幅員一〇・二メートルの町道とが交わるアスフアルト舗装の十字路交差点内であり、同所には信号機の設置なく、センターラインにより上り、下りの各線が区分されており、付近に横断歩道はなく見通しはよく、交通量は極めて頻繁であり、本件事故当時は小雨が降つていて路面は濡れていた。

(2)  原告は本件事故現場である十字路交差点の西側から東側に向つて横断しようとして、南方から北進する車を確認して進み、センターライン付近で一時立止り北方から来る車を見たところ三三メートルの地点に南進中の被告車を認めながら、被告車が来る前に通り抜けられるものと軽信し、何らの合図もすることなく、傘をさしたまま足早に進んだところ、横断し終らないうちに被告車に衝突させられてその場に転倒し受傷したものである。

(3)  一方被告磯は時速約四五キロで被告車を運転して南進し、本件現場にさしかかり、前方約三三メートルの道路センターライン付近に佇立し南方を脇見中の原告を認めたが、当時降雨中で路面が湿潤し滑走しやすい状況にあつたにもかかわらず、同一速度のまま進行したため、約一二・九メートルに接近した際、原告が道路東側に向けて足早に横断しようとしたのを認め慌てて急制動を施したところ、車輪が滑走して停車できず、車の左側前部を横断中の原告に衝突転倒させて、原告を受傷させたものである。

(4)  右事実によれば、被告磯は前方約三三メートルのセンターライン付近に原告が佇立しているのを認めたのであるから、警音器を鳴らしあるいは当時降雨のため路面は湿潤し滑走しやすい状況にあつたのであるから直ちに減速ないし徐行して何時でも停車その他衝突回避のための必要な措置を適宜とりうる態勢で進行すべきであるのに、漫然同一速度のまま進行したため本件事故は発生したものというべきである。もつとも原告も交通頻繁な国道四号線の信号機もなく交通整理の行なわれていない横断歩道もない十字路交差点を横断するのであるから左右の交通の安全を充分に確認すべきであるのに、これを怠り、南進中の被告車を認めながら、それとの距離、その速度、動勢、位置関係の確認と判断を誤り、そのため被告車の来る前に通り抜けられるものと軽信し、何らの合図もせず傘をさしたまま足早に横断しようとしたため、横断を終らない前に被告車に衝突させられたものであつて、原告にも左右の交通の安全を確認せず、かつなんらの横断の合図などをしなかつた過失を免れないが、前記のとおり本件事故発生の要因は被告磯の過失によるものであることは言をまたない。

三  原告の損害

(1)  治療経過等

〔証拠略〕を総合すると、次のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

<1>  本件事故により原告は事故当日から昭和四〇年一二月二一日まで頭部外傷および右第五、第六肋骨骨折の病名で石橋病院に入院した。

<2>  しかし一か月足らず経過するも腰痛がとれないので、原告は一先ず同病院を退院し、岡本台病院、川崎労災病院、新潟大学病院、下都賀病院をたずね、腰痛等の原因究明に努めたが、結局衝突により生じた腰部椎間板ヘルニヤであると診断され、この治療のため昭和四一年一月一二日から同年二月二六日まで下都賀病院に入院した。

<3>  原告は同病院を退院後、腹部の痛みが著しく、結局同年三月三一日から同年五月五日まで同病院に再入院せざるをえなかつた。同病院では外部的所見から胃炎として扱つたが、同病院の勧めで入院中に、国立栃木病院の精密検査を受けたところ、胃炎ではなく、十二指腸周囲の出血によるもので、しかも右出血は外傷に起因するものと判つた。このため原告は同年五月九日から同年六月八日まで国立栃木病院に入院して開腹手術を行ない、同日から同年七月二八日まで国立塩原温泉病院に入院して、術後療法を受けた。

<4>  そして、原告は昭和四一年九月二九日肝炎などの肝臓障害が影響して時折腰が痛んだり、疲れが早く出たりして、思うように働けず、国立栃木病院でなお向後約三週間の休養加療を要すると診断された。

<5>  原告は昭和四一年一〇月三一日自賠責後遺障害等級旧五級三号の後遺症の認定を受け、その保険金五三万円を受領した。

<6>  原告は昭和四二年一二月から藤川という製菓会社に就職し、製品の箱詰などの作業に従事しているが、疲れがすぐ出て、勤務がはかばかしくない。

<7>  原告は昭和四六年三月一七日から同年八月二一日まで一五八日間(内治療実日数八五日)頸椎鞭打症、腰部挫傷の病名で雀宮病院に通院した。

(2)  原告の蒙つた損害

<1>  治療費等

石橋病院分 五万一、六〇〇円

同病院付添看護費 一万二、二四〇円

下都賀病院分 一万〇、一七〇円

岡本台病院分 五、三七四円

福島義肢製作所の義肢代金 八、九〇〇円

合計八万八、二八四円は当事者間に争いのないところである。その余の治療費等の請求はこれを認めるに足る証拠がない。

<2>  給料喪失分

〔証拠略〕に前認定の治療経過を総合すると、原告は本件事故当時前田製菓株式会社に勤務し、販売関係の事務を担当し、給料は月額二万六、〇〇〇円を支給されていたこと、後遺症保険金を受領した昭和四一年一〇月三一日まで本件事故により入、通院を繰り返し、全く稼働することができなかつたことが認められ、右認定に反する、昭和四二年一一月まで働けなかつた旨の〔証拠略〕は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。してみると、本件事故による原告の給料喪失分は二万六〇〇〇円の一一か月分である二八万六、〇〇〇円である。

<3>  労働能力喪失分

前認定のとおり、原告は本件事故により頭部外傷、腰部捻挫等の病名で自賠責障害等級旧五級三号(現七級)の後遺症認定を受け、その保険金五三万円を受領したこと、その後も働くと疲れやすく、現在の作業内容も菓子の箱詰であることを考慮すると、原告の労働能力の喪失率は少なくとも一〇%を下るものでないと認めるのが相当である。

また、〔証拠略〕によれば、原告は昭和四一年一〇月三一日当時二九才二月であつたことが認められるので、三〇才の男子の就労可能年数は三三年であるが、頸椎鞭打症のほか腰部挫傷があるので、労働能力喪失が認められるのは一〇年間が相当であるからその年五分のホフマン係数は七・九四であるから

二六〇〇〇×〇・一×一二×七・九四=二四七七二八

となり、原告の労働能力喪失分は金二四万七、七二八円である。

<4>  慰藉料

前認定の原告の治療経過、入院日数、通院実治療日数、病名、傷害の部位、程度、年令、職業、健康状態等諸般の事情を考慮すると、原告の本件事故による精神的肉体的苦痛を慰藉すべき額は七〇万円が相当であると認められる。

四  過失相殺

前記二の3において検討した事実に照らすと、本件事故における原告と被告磯との過失の割合は一対九と認めるのが相当である。

してみると、前記<1>ないし<4>の損害金合計は一三二万二、〇一二円であるから被告らの負担すべき額はその九〇%に当る一一八万九、八一〇円(円未満切捨て)である。

五  損害の填補

右一一八万九、八一〇円から原告がその填補を受けたことの当事者間に争いのない八三万円を差引いた三五万九、八一〇円が後記弁護士費用を除く原告の損害である。

六  弁護士費用

〔証拠略〕によれば、原告は被告らが本件賠償に応じないので、弁護士安藤満次郎等に訴訟を委任して本訴提起に踏切つたことが認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容すべき損害額等に照らすと、原告が被告らに対し本件事故による損害として賠償を求められるのは四万円の限度において相当である。

七  結論

被告らは各自原告に対し、金三九万九、八一〇円および内金三五万九、八一〇円に対する本件事故発生の日である昭和四〇年一一月二五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よつて原告の本訴請求は右の限度において正当であるからこれを認容すべく、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条一項本人仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山修)

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